胃癌
胃癌
胃癌は日本人の多い癌です。年間約5万人が胃癌で死亡しています。日本人成人男性の癌の死因の第2位(第1位は肺癌)です。罹患率は第1位です。つまり肺癌のほうが死亡率が高い(予後が悪い)ということになります。胃癌の原因はさまざまですが、塩分摂取量が多いと胃癌のリスクが高くなるといわれています。冷蔵庫の普及や保存技術の進歩により、食物の保存も安全に長期間可能になりましたが、冷蔵庫のない時代は非常に濃い塩漬けで保存していました。そのような時代では非常に胃癌が多かったのです。現在では従って胃癌は減少傾向になります。また胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生に深く関わっているHelicobacter pylori(ピロリ菌)の感染も胃癌の発生に関与していると報告されています。
胃癌は日本人に多く、その診断、治療に関しては世界をリードする実績を上げてきました。早期胃癌とは”進達度(深さ)が粘膜下層までにとどまり、リンパ節転移は問わない”と定義され、進行胃癌は”進達度が固有筋層より深く浸潤したもの”と定義されています。
検査方法はX線検査と内視鏡検査に分けられます。X線検査はバリウムと発泡剤を飲みいろいろ体位変換する検査です。胃の集団検診で施行されますが、早期胃癌の発見は困難で、むしろ病変の広がりを客観的に捉えるための精密検査としての意味合いが強いです。内視鏡検査はスクリーニングとしては最も普及しており、現在では径の細い経鼻内視鏡が普及し楽に行えます。私も過去数回、内視鏡検査を受けましたが、径の細い方が受ける側としては楽です。しかし、検査を施行するほうとしては太いほうがよく観察できます。従って、スクリーニング(最初の検査)としては経鼻内視鏡を施行し、病変はみつかり精査する段階で通常の(経の太い)内視鏡検査を施行していただくと良いでしょう。当院でも経鼻内視鏡検査を施行しています。
胃癌が早期の場合、まず、内視鏡的治療の適応の判断をします。当初、”潰瘍形成のない高分化型の粘膜癌”に対し、EMR(内視鏡的粘膜切除術)が施行されました。この方法は内視鏡的に癌の部分をはがしとる方法です。胃癌が粘膜に留まり、潰瘍のないのものではこの方法でほぼ根治可能で、外科手術と同等と考えられます。胃癌治療ガイドラインでは2cm以下の肉眼的粘膜癌で組織型が分化型とされています。しかし範囲が広く、分割切除の場合は、局所再発の可能性があります。最近ではESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が施行されるようになり、内視鏡治療の適応が拡大されました。即ち、2cm以上の潰瘍のない、分化型、肉眼的粘膜癌、3c以下の潰瘍ありの分化型、肉眼的粘膜癌です。また、粘膜下層への浸潤例にも適応が拡大されています。しかし、穿孔、出血などの合併症もあり、時間もかかるなどの問題点もあります。また、長期的な予後の評価は今後の検討を要します。しかし、以前であればこのような患者さんはすべて、外科切除されていたわけですから、内視鏡切除で直ればこれにこしたことはありません。当院では消化器内科の赤澤医師が非常に積極的にEMR,ESDを施行していますので、是非ご相談ください。
胃癌治療の原則は外科切除であることは異論のないところでしょう。胃切除術の歴史は古く、1881年にドイツ人のビルロートが胃癌に対し施行し、成功したのが最初です。日本は胃癌の発生率が高く、偉大なる先人達の歴史があります。胃癌の外科治療を確立したのは癌研究会病院の梶谷鐶先生で、私が外科の駆け出しのころは部長から”梶谷先生の手術はすばらしい”とよく言われました。広範なリンパ節郭清を含めた根治的胃切除術が20年前には標準手術と考えられていました。基本的には現在も進行胃癌ではこの術式が標準です。一方、腹腔鏡手術が進歩し、腹腔鏡下胃切除術が施行されるようになりました。技術の進歩により少しずつ増加しています。胃癌ガイドラインでは胃体部、幽門部の胃癌で漿膜下層(胃癌が外側にでていない)までの胃癌に適応となっています。まだ限られた施設にとどまります。ちなみに王監督は腹腔鏡下胃全摘術を慶応大学病院で施行されていますがどこの施設でもできる段階ではありません。当院では現時点では、通常の開腹下の胃切除術を施行しています。胃切除後の再建方法もさまざまで以前は胃と十二指腸とつなぐ、胃十二指腸吻合(ビルロート1法)や十二指腸の断端を閉じて胃と十二指腸を吻合するビルロート2法が多く施行されていましたが、現在ではルーワイ再建(文章で説明しにくいので失礼します)になりつつあり、当院でもルーワイ再建を試行しています。この方法のメリットは胆汁の残胃への逆流が少なく(胸焼けの原因)、実際、術後の胃を内視鏡で観察すると前2者に比較して非常に胃粘膜がきれいです。
不幸にして手術後再発したり、発見された時点で遠隔転移などあり、根治切除が不可能な場合は、抗がん剤治療の適応です。これに関しましてはさまざまな抗がん剤が開発されています。詳細は省略させていただきますが、TS1(飲み薬)が主流です。これに加え、シスプラチン(点滴)の併用も多く施行されます。セカンドラインとしてはCPT11やタキサン系の抗がん剤が用いられます。
いろいろ書きましたが、基本は早期発見、早期治療です。早期胃癌の多くは症状はありませんので、定期的に内視鏡検査を施行したり、胃の具合が悪いときに、胃薬でやり過ごすのではなく、内視鏡検査をうけることが、一番大事だと思います。