膵癌治療の最近のTOPIX
膵癌は依然と非常に厳しい疾患であり、この20年間をみても劇的な治療成績の改善は認められません。日本膵臓学会のdataでも2001~2004年でstage I 1%、stage Ⅱ 1.7%、stage Ⅲ 10.3%、stage Ⅳa 20.4%、stage Ⅳb 54%、 不明は12.7%です。(図1)
stageが判明している中で検討してもstage Ⅳが80%と大半を占めています。Stage Ⅳbは通常型の膵癌の過半数を占めますが、たとえ切除出来ても5年生存率は5%以下です。(図2)
一方stage Ⅰの5年生存率は50%以上ですが、残念ながら膵癌患者全体の1%未満です。(図3)
一方膵癌全体の生存率の比較でみると、生存期間中央値(MST)は、1981-1990 5.2ヶ月、1991-2000 6.5ヶ月、2001-2004 10.2ヶ月、2000年以降で約4ヶ月の生存期間の延長が認められます。(図4)
これはゲムシタビンを中心とした抗癌剤治療の影響と考えられます。
しかし依然膵癌の大半を占めるstage Ⅳの3年生存率は3.5%にとどまっています。(図5)
現在膵癌治療に用いられる抗癌はTS1、ゲムシタビン、タルセバ(小分子標的治療薬)が主に使用されています。しかしいずれもMSTは8~10ヶ月です。
2011年切除不能膵癌に対しFOLFIRINOX療法とゲムシタビンの比較試験の成績がフランスより報告されました(NEJM 2011 : 364 : 1817-1825)。ゲムシタビン 6.8ヶ月に対しFOLFIRINOX 11.1ヶ月のMSTでFOLFIRINOXの有意性が示されました。(図6)
FOLFIRINOXはオキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、ロイコボリンの4剤併用療法であり2013年12月日本でも承認されました。毒性が強く副作用に注意して使用しなくてはなりません。しかしstage Ⅳが大半を占める現状では使用効果が期待されています。
当院でも2例に使用しいずれも腫瘍縮小率30%(Partial Response)を認めています。(図7)
当院では健診を含め膵癌の診断・治療に力を入れており、手術可能例に対しては切除を原則とし、手術不能例に対してもあきらめることなく最新の化学療法を施行しています。Stage Ⅳ膵癌切除例で5年生存例も得ています。
最近、免疫細胞治療も注目をあびており当院でも瀬田クリニックグループと提携し行っています。当院では現在αβ-T細胞療法、rδ-T細胞療法、樹状細胞療法(DCワクチン療法)、NK細胞療法を施行し病態に応じた治療を選択しています。(図8)
本治療は保険外診療であり患者さんへの経済的負担が多いのが課題です。CTL(Cytotoxic T Lmphocyte)が強く癌抗原を認識した場合、肝転移が消失し3年生存例も経験しています。
抗体医薬の中にはNK細胞、rδ-T細胞などを癌によびよせる作用(ADCC・抗体依存性細胞傷害活性)を持つものがあります。(図9)
残念ながら現時点では膵癌に使用可能な抗体医薬はなく、今後の開発が期待されています。
以上最近の膵癌治療TOPIXについて紹介しました。